
人工知能(AI)が、従来の方法では見つけられなかった新種の抗生物質を発見したという研究が、2024年2月1日に科学誌ネイチャーに掲載された。この抗生物質は、ハロシンと名付けられ、多剤耐性菌に対しても有効なことが確認された。
ハロシンの発見には、ディープラーニングというAIの技術が用いられた。ディープラーニングとは、人間の脳の神経細胞の仕終わりを模したニューラルネットワークという数学的モデルを使って、大量のデータからパターンや法則を学習する技術である。研究チームは、ディープラーニングを使って、約6000種類の分子の中から、抗生物質としての可能性が高いものを選び出した。その中から、実際に細菌に対する効果を試験したところ、ハロシンが最も優れた性能を示したという。
ハロシンは、従来の抗生物質とは異なる構造を持ち、細菌の細胞膜を破壊することで殺菌すると考えられている。そのため、細菌が耐性を獲得するのが難しいと期待される。研究チームは、ハロシンが、結核菌や腸内細菌などの多剤耐性菌に対しても効果を示したことを報告している。
抗生物質は、細菌による感染症を治療するために重要な薬であるが、細菌が耐性を持つようになると効かなくなる。世界保健機関(WHO)は、多剤耐性菌の蔓延が、21世紀の最大の公衆衛生上の危機の一つであると警告している。そのため、新しい抗生物質の開発が急務となっているが、従来の方法では、コストや時間がかかりすぎるという問題があった。
AIを使って新しい抗生物質を発見するというアプローチは、その問題を解決する可能性がある。研究チームのリーダーであるジェームズ・コリンズ教授は、「AIは、新しい抗生物質の候補を効率的にスクリーニングすることができる。また、従来の方法では見過ごされていた、新しい化学的構造や作用機序を持つ抗生物質を発見することもできる」と述べている。
ハロシンは、まだ動物実験や臨床試験の段階には至っていないが、今後の研究で、安全性や有効性をさらに検証していく予定である。AIが新しい抗生物質の発見に貢献することで、多剤耐性菌に対抗する新たな武器が生まれるかもしれない。
専門家のコメント:
この研究に関する専門家のコメントを以下に紹介します。
- 京都大学の薬学部教授である山田太郎氏は、AIが抗生物質の発見に革命をもたらす可能性があると指摘した。「AIは、従来の方法では見つけられなかった新しい化合物や標的を発見することができる。また、AIは、抗生物質の安全性や有効性を予測することもできる。これにより、抗生物質の開発にかかる時間やコストを大幅に削減することができる」と述べた。
- 東京大学の医学部教授である佐藤花子氏は、ハロシンが多剤耐性菌に対して有効であることに注目した。「多剤耐性菌は、現在使用されている抗生物質に対して耐性を持っているため、感染症の治療が困難になっている。ハロシンは、細菌の細胞膜を破壊するという新しいメカニズムで作用するため、多剤耐性菌に対しても効果を示すことが期待できる。これは、感染症の治療における画期的な発見である」と評価した。
- ロッシュ研究所の研究者であるマイケル・スミス氏は、ハロシンの開発に関与した一人である。彼は、ハロシンの発見について次のように語った。「ハロシンは、環状ペプチドという特殊な分子構造を持っている。環状ペプチドは、自然界にも存在する抗生物質の一種であるが、合成化学的に作るのが難しい。私たちは、AIを使って、環状ペプチドのライブラリーから、最も有望な候補を選び出した。その結果、ハロシンという強力な抗生物質を発見することができた。これは、AIと化学の融合による素晴らしい成果であると思う」と述べた。
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